シャトー・ディケム(d'Yquem)
誰もが認める世界最高峰の甘口白ワイン

ロバート・パーカー著「世界の極上ワイン」より

究極の舌を持つテイスター、ワインの世界を変えた男、 帝王ロバート・パーカー自身の厳しい眼で選ばれた9カ国156のワイナリーを詳述しています。それはまさにパーカー自身の過去30年にわたるワイン評論の集大成と呼べるもので、ここまで冷静かつ詳しく調べ上げていることに感嘆させられます。

歴史家たちは、土地の譲渡証明に記されていることから、1593年にはこのシャトーを取り巻く土地がイケムと呼ばれていたことを実証している。シャトー、あるいはその一部は12世紀に建設された。1785年にリュル・サリュース家が所有者になる頃には、そのワインは既に世界的な評価を得ていた。トーマス・ジェファーソンは1784年のワインを250本注文しており、その後1787年をジョージ・ワシントン大統領のために360本、自分自身のために120本購入している。イケムは、ロシアでの人気はさらに高く、皇帝たちはこの不老不死の薬の熱狂的なファンで、購入者であった。以来、イケムの名声が揺るがなかったことは確かである。

ソーテルヌ地方の中心部に位置するイケムは、たくさんの第一級シャトーに囲まれた畑を見下ろす小さい丘の頂に雄大に広がっている。1785年から1997年までの間、このシャトーは、一家族によって所有されていた。アレクサンドル・ド・リュル・サリュース伯爵は、この広大なシャトーの経営責任者である一族の最も新しいメンバーで、1968年に叔父からこのシャトーを引き継いだ。1997年に、このシャトーは巨大なコングロマリット、モエ=ヘネシーに売却されたが、リュル・サリュース伯爵が売却に異議を申し立てていたために2004 年までは彼が管理していたが、シュヴァル・プランを管理しているピエール・リュリュトンに代わった。

イケムの偉大さとユニークさには、いくつかの要因があることは間違いない。まず第一に、独自の微気侯を伴う完壁な立地条件があること。第二に、リュル・サリュース家は、97キロメートルにも及ぶパイプを用いた精巧な排水システムを設置したこと。第三に、イケムには、経済的な損失やトラブルを斟酌せずに、最も良質なワインだけを生産しようという狂信的とも言える執念が存在することだ。イケムが、近隣の畑に比べてこれほど優れている最大の理由は、この最後の要因にある。 イケムでは、1本のブドウ樹からたったグラス1杯のワインしかつくらないと誇らしげに語られる。

多くの場合、イケムに6〜8週間滞在し、最低でも4回に分けてブドウ畑をまわる150人もの摘み手のグループによって、ブドウが完壁に成熟するのを待って一粒一粒摘まれる。

1964年には、摘み手たちは、13回にもわたって畑を回ったが、不向きと見なされるブドウを収穫しただけで、結局このヴィンテージでは全く何も生産しないままイケムをあとにした。ワイン醸造をしているシャトーの中で、収穫全体を自発的に格下のワインにまわすところ、あるいはそれが経済的に可能なところはほとんどない。

イケムは信じられないような熟成の可能性を持っている。イゲムのワインはあまりにリッチで、豪華で甘いために、その多くはいつも10回目の誕生日を迎える前に飲まれてしまう。しかし、イケムが最高の飲み頃になるにはほとんどの .場合15〜20年の年月が必要であり、偉大なヴィンテージは、50年あるいは75年以上たっても、新鮮で退廃的な豊かさ備え続けているだろう。

私がかつて飲んだことのある最も偉大なイケムは1921年だった。驚くほど新鮮で生き生きとしており、その賛沢さと豊かさは決して忘れることはないだろう。

こうした品質への情熱的なこだわりは、何も畑に限ったことではない。ワインは新樽の中で3年以上かけて熟成され、全収穫量の20%が蒸発により失われる。シャトーの管理者が瓶詰めできると見なしたワインでも、最良の樽からだけ厳しく選別される。

1980年、1976年、1975年といった秀逸な年には、樽の20%が排除された。1979年のような困難な年には、60%のワインが格下のワインにまわされ、1978年のような手に負えないヴィンテージでは、85%のワインがイケムとして売るのにふさわしくないと判断された。私の知る限り、これほど無情な選別過程を採り入れているシャトーは他にない。イケムでは、豊かさが少しでも失われることを恐れて、決して濾過処理を行なわない。

イケムはまた「Y(イグレッグ)」と呼ばれる辛口のワインをつくっている。これは特色のあるワインであり、イケムらしいブーケを持ちながら、樽香が強く、味は辛口で、通常は非常にフルポデイで際立ってアルコール度数が高い。パワフルなワインで、私の舌にとっては、フォアグラのようなコクのある食べ物と一緒に出されるのが最高である。

イケムは他の有名なボルドー・ワインと違って、オン・プリムール、つまり先物で売られることはない。このワインは、通常はそのヴィンテージの4年後に、極めて高い価格で出荷されるが、費やされた労力、リスク、そして厳格な選別過程を考えれば、成層圏に届くような値札に値する数少ない高級価格ワインのひとつである。

 

「神の雫」や「美味しんぼ」にも登場

世界最高の甘口白ワインとして有名なイケム(ディケム)。「神の雫」(第2巻11話「別れのデザートは甘く」)では「1990年はグレート・ヴィンテージ」と取り上げられました。


また「美味しんぼ」(第74巻、「恍惚のワイン」)でも、山岡史郎が学生時代に父である海原雄山に飲まされて、「満開の花と熟れた果実の香りが、涼しい風に乗って吹き渡る」ようなワインだったと述懐する場面にも登場しています。